PF構造生物学グループの現状 生物マシーナリーNewsletter No.7
   ハイスループット放射光X線構造解析実験施設と
   細胞内蛋白質輸送系と糖鎖修飾系の構造ゲノム科学


II. 科学技術振興調整費「蛋白質X線結晶構造解析の高度化に資する基盤整備」

 本基盤整備は、放射光により蛋白質の精密立体構造とその機能の関係を解明し、ヒトゲノム計画などから得られる生物学的、医学的に重要な蛋白質群をターゲットとした構造ゲノミクスプロジェクトを推進することを目的とすると共に、X線結晶構造解析の高度化を図り、開発された技術を実際に放射光研究施設や各研究施設に整備して全国の共同利用研究に供することを想定して立案されている。
 第三世代放射光のベンディングマグネットを凌駕する輝度を持つビームラインを建設するためにはPFの直線部増強を行うことが不可欠であり、このため新たにミニポールアンジュレーター等を利用して構造生物学研究用のビームラインを建設し、それを活用するための構造生物学実験設備を整備する。
 また、各国で進行中の構造ゲノムプロジェクトでは個々のステップの効率化を目指しているが、本提案では結晶化からデータ解析までを一つのシステムとして最適化する。さらに、これらのコンポーネントを各研究拠点から有機的に利用できる協同実験体制を構築する。以上のことを達成するための基盤整備として以下のプロジェクトを推進する。

(1) 蛋白質大量発現、精製システムの開発

 (東京大学田之倉優教授、西郷薫教授、京都大学三木邦夫教授、フォトンファクトリー) ヒトをはじめとした多くの生物種でゲノム配列が明らかにされ、コードされる遺伝子・蛋白質配列もcDNAセット等として網羅的に採取可能となってきている。生命の機能は多くの場合、遺伝子産物である蛋白質により行われており、蛋白質の構造を網羅的に解析することは生命現象を理解するための重要な情報を与える。
 結晶化に必要な純度と量の蛋白質を供給するために、組換えDNA技術を用いた大量発現系が既に広く利用されているが、それでは発現しない蛋白質も数多い。そこで、さらに新しい蛋白質発現系の開発を行う。既存の大量発現系とこれらの成果を用いて、網羅的な蛋白質発現実験とその精製を行う。
一方、このような網羅的な研究と同時に、生物学的な対象を絞ったプロジェクトも同時並行して行う。生命現象を蛋白質のネットワークの集合として捉えた場合、生 命現象を担うそれぞれの部分に切り分けて解析を行うことは、特に機能と構造の関連を解明する上で有効なアプローチである。本提案では、(1)発生と分化、(2)翻訳後修飾、(3)RNA interference、の3つの目的指向型構造ゲノム研究を行う。

(2) 全自動蛋白質結晶X線回折能検査・極低温結晶装填システム

 (京都大学三木邦夫教授、フォトンファクトリー) 現在各国で進められている構造ゲノムプロジェクトで開発されているハイスループット技術開発で最も開発の遅れているのは、結晶化トレー内の結晶を迅速に液体窒素で凍らせる技術である。そこで、本サブシステムでは、可視光と放射光X線の両方で結晶のスクリーニング・極低温自動ループ装填を行うことのできる全自動蛋白質結晶X線回折能検査・極低温結晶装填システムの開発を目指す。

(3)ハイスループットなマイクロフォーカスMADビームラインの整備

(フォトンファクトリー、(財)NHKエンジニアリング)数々の構造ゲノミックス計画から得られる膨大な数の蛋白質の構造解析を遅延なく進めるには、高精度なX線蛋白質結晶構造解析用ビームラインが不可欠である。今後の構造ゲノムプロジェクトの発展に見合ったキャパシティーの増加に対応するため、(1)KEK, PFの放射光リングにマイクロフォーカスMADビームラインを設置し、(2)超微小結晶用回折装置と、(3)次世代2次元X線回折検出器等を研究開発することによって、システム全体としてハイスループットとなるビームラインの構築を行う。

(4)全自動蛋白質構造解析ソフトウエアの開発

(北海道大学田中勲教授、大阪大学蛋白質研究所中川敦史助教授、フォトンファクトリー)蛋白質の構造解析は、シンクロトロン放射光利用と多波長異常分散法の開発により、近年、大幅なスピードアップが図られた。しかし、それでもゲノム科学による蛋白質の1次配列情報の決定に比べるとはるかに遅く、さらに1桁以上のスピードアップを達成することが急務である。
 そこで蛋白質の立体構造決定に必要なプログラムを有機的に結合し、かつエキスパートシステムの導入により、最終構造決定までの全プロセスを全自動で行う解析プラットホームの構築を行う。全自動で行うことにより、解析の迅速化が図れることはもとより、主観的解釈等によるヒューマンエラーの発生の可能性を除去し、構造解析の品質向上が図られると期待できる。難解な解析での自動プロセス失敗を避けるために、結晶学者の経験をデータベース化し、エキスパートシステムとして取り入れる。また解析アルゴリズム開発を行い、プラットホームに機能を随時追加していく。
 以上のような提案が科学技術振興調整費・知的基盤整備プロジェクトとして選ばれ平成13年度10月から15年度にかけての2年半という期間で開始された。