PF構造生物学グループの現状 生物マシーナリーNewsletter No.7
   ハイスループット放射光X線構造解析実験施設と
   細胞内蛋白質輸送系と糖鎖修飾系の構造ゲノム科学


III. 細胞内輸送関連蛋白質群の系統的なX線結晶構造解析

 様々な細胞小器官を含む真核細胞では,細胞内の蛋白質輸送が時間的,空間的に精緻にコントロールされている(図2)。真核細胞内でリボソームにより合成された蛋白質は、付加されたシグナルをもとに、種々の輸送機構によってそれぞれの目的地に輸送される。その目的地は、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、核などの各細胞小器官、あるいは細胞膜や細胞外部等、多岐にわたるが、これらの目的地に蛋白質を正確に分配し輸送することは、細胞が生命活動を営むための必須条件である。実際,これらの細胞内輸送に関わる蛋白質に変異が起こり、誤った場所に蛋白質が輸送されることによって引き起こされるヒトの病気も多数存在している。
 従って、これら蛋白質輸送に関与する蛋白質群の機能を理解することは、基礎生物学と医学の両面から重要であり、分子細胞生物学の最重要分野の一つとして位置づけられている。これらの秩序だった蛋白質輸送は,細胞小器官に存在する蛋白質群との間の相互作用によって制御されている(図3)。従って,それら個々の制御因子となる蛋白質の構造を明らかにすることは,輸送機構を理解する上できわめて重要である。最近になり,細胞内輸送に関わる輸送小胞を被覆するクラスリンや,その形成に深く関与しているG蛋白質とその関連因子,輸送小胞の標的細胞小器官を選別するSNARE複合体など,個々の輸送制御蛋白質の構造は明らかにされつつある。今後はさらに,輸送現象の本質である蛋白質-蛋白質相互作用を明らかにするために,制御蛋白質同士の複合体や輸送のターゲットとなる蛋白質との複合体に関する研究に重心が移っていくものと考えられる。複合体の研究では,個々の蛋白質の結晶構造を元にしたX線小角散乱,クライオ電子顕微鏡,X線顕微鏡を用いた研究も展開されることが期待される。しかしながら,輸送過程で生じる分子間相互作用を原子レベルで解明する手法は,現状では放射光を用いたX線結晶構造解析をおいて他にない。

 既に、若槻らはCOPII蛋白質の膜上への集合を促す低分子量G蛋白質Sar1pのGDP/GTP交換因子(GEF)として機能するSec12pの構造を決定している(投稿準備中)。その解明した構造は三量体G蛋白質サブユニットの一つGbの構造と類似していることから、シグナル伝達系で頻繁に使われている7枚βプロペラ構造とG蛋白質との結合様式が、細胞内蛋白質輸送という全く異なった目的にも使われていることを示した。この実験事実を踏まえ、GbgがGaのGDPとGTP交換機能を持ちながら、普段はこの機能が阻害されており、G蛋白質共役型レセプター(G-protein Coupled Receptor)によって活性化されて初めてこのGEF機能が解放され、GTP結合型のGaとGbgに分かれてそれぞれが下流のシグナル伝達系へのシグナルとなるというモデルを提唱した。現在はSec12pとそのターゲットG蛋白質であるSar1pとの複合体の結晶構造解析へと研究を進展させている。さらに、シスゴルジネットワークへ漏れ出てしまった小胞体蛋白質のリカバリーに関わる蛋白質の構造解析も進めている。
 これらの研究をさらに発展させるため、筑波大学中山和久博士との共同研究により、COP I関連の蛋白質についても構造解析を進めている。具体的には、トランスゴルジネットワークに局在し、別の低分子量G蛋白質ARFのエフェクターと考えられるGGA蛋白質群の各ドメインについてX線結晶解析法を用いて構造解析を進めている。さらに、それらとアダプター蛋白質との複合体の結晶解析も行う。現段階ですでにGSTやHisタグを用いて可溶な各ドメインの蛋白質を得ており、またその一部については結晶構造も得られている。結晶構造によって明らかになる会合状態に関しては、ドメインを切り出して結晶化したことによるartifactがないかどうかをX線小角散乱によって検証している。また、このような各ドメインおよびターゲットタンパク質、ペプチド等の複合体の結晶構造解析と平行して、結晶化が極めて困難なGGAタンパク質全体や複合体についてもX線小角散乱を用いてその全体像の構造解析を進める。