PF構造生物学グループの現状 生物マシーナリーNewsletter No.7
   ハイスループット放射光X線構造解析実験施設と
   細胞内蛋白質輸送系と糖鎖修飾系の構造ゲノム科学

IV. 蛋白質糖鎖修飾酵素の系統的なX線結晶構造解析

 ヒトゲノム計画の結果を最大限医用薬用に役立てる場合、ゲノム計画から得られたヒト由来の糖タンパク質をいかに生理活性を持たせた形で大量発現させるかという問題がある。正しいフォールディングと共に、生理活性の重要な因子としてあげられるのが、糖鎖修飾である(図4)。哺乳類細胞と異なり、出芽酵母のN-結合型糖鎖は小胞体で合成されたコア糖鎖に多量のマンノース残基からなる糖外鎖がゴルジ体で付加されるため、酵母で生産した生理活性糖蛋白質をヒトなど高等動物に投与すると、酵母型糖鎖に特異的な抗体が形成されたり、本来の生理活性が発揮されない等の問題点がある。
 蛋白質の糖鎖修飾は、小胞体内で始まりゴルジ体の各コンパートメント (シス、メディアル、トランスゴルジ)を通過することによって完成する。これらの間の蛋白質輸送は輸送小胞を介して行われることから、細胞内輸送と糖鎖修飾との間には密接な関連がある。さらに、糖鎖修飾酵素自体の小胞体やゴルジ体への局在化も、細胞内輸送により仲介される。細胞内輸送は様々な蛋白質が相互作用することによって調節されており、細胞内輸送関連蛋白質間の相互作用の様式を生化学的、分子生物学的に明らかにすることは、細胞内輸送自体の調節機構の解明のみならず、糖鎖修飾の調節機構の解明にもつながる。さらには、これまで細胞内輸送の研究分野で欠けていた構造生物学的知見が加われば、これらの調節の分子レベルでの解明が期待される。


 産業技術総合研究所(旧工業技術院生命研究所)の地神芳文博士によって研究の進められた糖鎖付加における糖ヌクレオチド代謝回路関連の遺伝子(図4)の大量発現系を当研究グループで構築し、精製・結晶化および結晶構造解析を行う。ターゲットとしては、糖転移酵素とドナー、アクセプターとの複合体、完全膜貫通型のUDP-Gal対向輸送体を選ぶ。糖転移酵素は現在までに解かれている結晶構造は2例しかなく、しかも、ドナーに対する選択特異性に関する知見は明らかにされていない。UDP-Gal対向輸送体に関しては、完全膜貫通型であるため、チャレンジングな蛋白質であるが、最近バクテリオロドプシン、ハロロドプシン等で成功しているCubic lipidic phase法やチトクローム酸化酵素の結晶化に用いられた抗体との共結晶化法等を応用して系統的な結晶化を試みる。
 生体内で重要な生理機能を担う糖鎖や糖蛋白質は、種々の混合物として微量しか存在しないため、糖鎖の構造と生理機能との相関が明らかでない場合が多い。しかしながら、医薬品として有用な糖蛋白質等を開発するためには、構造の均一な糖鎖をもつ糖蛋白質を目的に応じて自在に供給できる技術の開発が必要とされ、分子レベルでの生理機能の理解が不可欠となる。高マンノース型糖鎖は細胞性免疫の賦活など重要な生理活性をもつため、糖鎖生産技術は産業上も重要なものとして期待される。また、Gal付加や糖ヌクレオチド合成(UDP-Gal等)は哺乳類細胞にも共通することから、その制御機構と生理的意義の解明は真核生物で普遍的に重要な意味を持つ。さらに、高マンノース型糖鎖の生産技術と合わせ、ヒトゲノム計画の産業利用、医学利用に最大限の貢献をもたらすと期待される。